推しやる夫スレの話 ◆XHF82e6mgU氏③

 前回「明日今回の続きを書く」と言って終わってから、三日くらい時間が経ってしまった。その間僕が何をしていたかと言えば本当に何もしていなくて、仕事が終わったらセンズリこいて寝るだけの生活をしていた。可処分時間は少なくないはずなのにどうしてこうなるのだろう。

まあその辺の話は本題ではないので置いておくことにしたい。今回は推しやる夫スレ(作者)紹介の続きをするのだ。

短編紹介

◆XHF82e6mgU氏は、短編をたくさん書いている。これらはしばしば雑談スレに投下され、その内のいくつかは僕もリアルタイムで追うことができた。

 今回はその短編の中から、いくつかを選んで紹介したい。画像は全て、氏の短編を「◆XHF82e6mgU氏の短編集」という名前でまとめていらっしゃるやる夫短編集 阿修羅編様に依った。

やる夫とやらない夫と翠星石は昨今の効率至上主義の生きづらい冒険者界隈の風潮に反してゆったりと観光客気分で世界のダンジョンを楽しむようです

Ep1とあるが、続きはない。画像クリックでやるお短編集 阿修羅編様のまとめ記事に飛べます。

 最初はこれ。名前が長い!

 YYS(やる夫やらない夫翠星石)のトリオが面白おかしくかけあいながらダンジョンを攻略していく、というお話。文章にしてしまえばマージでこれだけなのだが、会話のテンポが良く、際立ってキャラクターも立っているので、めちゃくちゃ面白く読めてしまう。

 攻略するダンジョン(雨の塔)についてもバッチリ書き込まれており、ファンタジー世界の紀行文としても完成度が高い。さっくり読めてエンタメ性も高いので、最初に読むには特におすすめしたい短編だ。

幸運石の行方

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 お次はこちら。沖縄のとある離島に伝わる幸運石についての物語。やらない夫は子供の頃のある日、幸運石らしき石を拾う。幼い彼は同級生の蒼星石にそれを渡してしまうが……。

 素朴な伝説とそれにまつわる人生の機微を描く。

予言者の彼女と幸せに暮らすための10の方法

インデックスさん。画像クリックでやる夫短編集 阿修羅編様のまとめ記事に飛べます。

 普通の大学生できる夫と、予言者:インデックスとの恋を描いた物語。インデックスさんはかわいく、ヒロインの器を持っていることがよくわかる。

私たち兄妹のこと

微妙な距離感の二人。画像クリックでやる夫短編集 阿修羅編様のまとめ記事に飛べます。

 両親の再婚によって兄妹関係になったやらない夫とやらない子の物語。義理の兄妹という非常に独特な男女の関係がバチバチに描写されている。終始明るく楽しげな雰囲気だが、実はかなり暗い。

雨の降る惑星で幸せに暮らすっていうこと

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 雨に打たれることが毒になる世界の物語。年単位で降り続ける雨に今日も降りこめられたやる夫のところに、知らない女の子が訪ねてくるが……。

 梅雨の季節に読みたい一編。話が進んでいくうちに、やる夫と女の子(佐々木)との間にある関係性が明らかになっていく。滋味深い。

水族館

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 誰もが前世を覚えている世界の物語。蒼星石のクラスはどうやら、全員が海の生き物を前世に持っているようだが、水銀燈はそれがどこか不満なようで……。

 最高のジュヴナイル短編。海に行きたくなる。

 以上。他にも『千年ダイヤ』、『建国祭とエレジー』、『ワールド・エンド・クリスマス』、『爆弾の作り方(How to meke a bomb)』、『月末読本』、『翠星石と蒼星石が現代の短歌を紹介するようです』あたりも紹介したかったのだが、本当にキリがなくなってしまうので次の機会に回すことにする。

 ちなみに、これらの短編については、氏のやる夫スレ引退宣言時に簡単な解説が付けられている。興味がある方はこちらもぜひ確認してみて欲しい。

小説紹介

 氏は現在、pixivに活動の場を移し、XHFと名前を改め、主にラブライブの二次創作小説を投稿している。たまにオリジナル小説も投稿している。

 これはかなり宝の山で、埋もれさせるにはあまりに惜しい。誰にも言わずに隠しておきたい気持ちもあるのだが、意を決して紹介することにした。

 とはいえ、やることはこれまでとあまり変わらない。氏がpixivに投稿している作品のいくつかについて、紹介したいと思う。この先も僕の独断と偏見にまみれた文章が続くので、その点は注意されたい。

 最初に紹介するのは大長編であるこちら。ラブライブのオメガバースパロ小説だ。

 オメガバースと聞いて反射的に眉を潜めた方。とてもわかる。僕はこの小説からオメガアースを知ったが、まあ、もにょもにょする部分も多くあった。しかしそこはぐっと堪えて読み始めてみて欲しい。全寮制の音の木坂に暮らすμ’sたちの友情、愛情、衝突……本気で生きる彼女たちの全てがそこにある。

 この小説はオメガバースの持つ悪趣味さからも逃げていない。現実よりも遥かに険しい性の断絶をバチクソに描き、そこで必死に生きる彼女たちを生々しく描写する。

 この小説のすごいところは、キャラ描写の説得力だ。メインとなるμ’sの九人全員――穂乃果、ことり、海未、真姫、凛、花陽、にこ、絵里、希――が、圧倒的に本人として描かれる。「この子はこういうことを言うし、こういうことをやる!」という解釈が非常に堅固で、オメガバース世界のμ’sに圧倒的な存在感を感じることができる。

 もちろんオメガバースパロとしても完成度が高い本作だが、日常ものとしてもすさまじく面白い。文字数は驚異の七十万字(今はもっと行っているはずだし、まだ完結していないのでこれからどんどん伸びていくだろう)。商業小説にも負けないボリュームとストーリー、キャラ描写をグワッッッ!!!と浴びることができる。

 今すぐ読もう。

 お次はこちら。大人になったμ’sについて描いた短編だ。タトゥーを入れて「タトゥーを入れた」とメンバーそれぞれに色々なやり方で報告することりちゃんと、それに翻弄される皆の姿を描いている。

 このことりちゃんはすごい。ことりちゃんの持つ“自覚的”な部分を七日七晩煮詰め、同じだけ寝かせることでこうした魔性のことりちゃんが出来上がるのだろう。怖い。

かわいいものクレプトマニアック

 かわいいものを蒐集したい“癖”のあることりちゃんの物語。

ときかけ

 アイドルは30歳になると一度だけ魔法が使えるようになる。高校生の希の前にそう嘯くにこが現れて、誕生日ライブをしてくれる。

 希の「大人になろうと背伸びしている子供」という魅力がこれでもか! これでもか! と引き出されている。読み終えた後、ブラック・プラネットを聴き終えた時のような心地よい浮遊感が残る。短編なのですぐ読める。

 今すぐ読もう。

 オリジナルのSF短編。民間軍事組織に属する“私”と、彼女の調整したオペレーションシステム“ミレイ”について描いた物語。

 これは荒廃した世界を往く“私”と、彼女のトラックに搭載されたAI:ミレイによるローッドムービーだ。マッドマックスを連想させる過酷な世界で、“私”は「好みの声をしている」電子基板と集積回路の塊に、おそらく恋をしながら生きている。それはピグマリオンめいたウェットな感傷だが、時にそれは“私”を動かす強力なエネルギーに変わる……。

「オリジナル」、「百合文芸2」というタグがついているが、導線がこの二つしかないのはあまりにもったいない一編だと思う。ブックマーク数が5(内一人はカレーだ)は、どう考えても評価が追いついていない。

 今すぐ読もう。いや、読んでください。

まとめ

 ハーッ、ハーッ……いかがだったろうか。かなり勢い任せで書いてしまったが、言いたいことはきちんと伝わっているだろうか。

◆XHF82e6mgU氏の作品の魅力については、半分も伝え切れていないと思うが、少しでも興味をもっていただけたのであれば幸いである。

 作品がつまんなそうだな!と思ったらそれは僕のせいだし、面白そうだな!と思ったらそれは氏の力だと思う。とにかくなんでもいいから今すぐ氏の作品を読み、ぶん殴られて欲しい。インターネットは広く、名の知られていない真のクリエイターはいる。そういうことが実感できると思う。